http://www.asyura2.com/12/asia14/msg/252.html
Tweet |
「日経新聞」に連載された「朴政権の韓国」より:
(1) 世界最速の高齢化 陰る潜在成長力
2月25日、韓国で朴槿恵(パク・クンヘ)政権がスタートする。5年の任期の間に、同国は経済、内政、外交のあらゆる面で転換期を迎える。中でも「待ったなし」の課題は、症状がすでに出始めた少子高齢化だ。
昨年12月、韓国・企画財政省は2012年と13年の実質経済成長率をそれぞれ2.1%、3.0%と見込んだ。11年の実績は3.6%。韓国政府は20年まで3.8%の潜在成長率が続くと予測してきたが、3年連続でそれを下回ることになる。
実態面でも08年をピークに不動産価格がじりじりと下がる。昨年から消費は予想外に伸び悩む。1990年代初めの日本と似た症状で「ついに我が国も高齢化問題に直面した」(朝鮮日報1月1日付)と懸念される。
経済協力開発機構(OECD)によると韓国の生産年齢人口(15〜64歳)が全人口に占める割合は12年にピークに達した。今年から世界最速とされる高齢化のオーナス(負担)期に入る。すでに家計貯蓄率は88年の25.9%から12年には2.8%に落ち込んでいる。
韓国では公的年金の支給開始が60歳なのに、定年は55歳の会社がほとんど。額も月に数万円にすぎない。このため、引退期に入ったベビーブーム世代(朝鮮戦争後の55年から63年生まれ)が軽食店や理髪店など慣れない自営業に手を出し、失敗するケースが急増している。
賃貸料で生活費を稼ごうとしたものの不動産価格が落ち込み、資産を減らす人も多い。朝鮮日報(12年11月11日付)は「今後『老後難民』が大量に発生する」と警告した。
(編集委員 鈴置高史)
[日経新聞1月21日朝刊P.19]
(2) 政治問題化する若年失業 雇用改革 急務に
2012年12月の韓国大統領選挙では貧富格差が大きな争点となった。左派の文在寅(ムン・ジェイン)候補が48.02%もの得票を得て、51.55%の朴槿恵(パク・クンヘ)氏に迫った。
深まる一方の失業問題が文候補への強い追い風となった。左派候補をことに強く支持したのは、日本以上の就職難に直面している若い世代だ。
韓国の統計庁によると昨年の20歳代と30歳代の就業者数は前年と比べそれぞれ4万人、3万1千人減った。全体では43万7千人増加したが、増えたのは主に50歳代と60歳以上。これも相当部分が退職後の生計費を稼ぐ目的での自営業の開業だ。高齢化で退職者が増えたのを反映したにすぎず、「雇用の質が悪化した」(朝鮮日報1月9日付)。
現代経済研究院によると青年層(15〜29歳)の実質的な失業率は22%にのぼる。また「09年以降の(大学)卒業生の4割が非正規職として就職している」(高安雄一著「隣りの国の真実」)。
韓国の経済成長率は1999年以降、一貫して日本を上回っている。それなのに日本よりも就職が難しいのは、97年の通貨危機を契機に政府が解雇を容易にできる仕組みに変えたのがきっかけだ。
企業は終身雇用制度を見直し、従業員も減らして生き残った。景気が回復しても非正規職の採用で補う傾向が強い。工場も、より賃金の安い発展途上国に流れ出た。
次期大統領の朴氏は公約に「公共部門での非正規職の正規職への転換」を掲げたが、解決には力不足。左右両派の対立が深まる可能性がある。
(編集委員 鈴置高史)
[日経新聞1月22日朝刊P.24]
(3) 批判高まる財閥集中 中小育成に転換
韓国で財閥への風当たりが強まる。成長が鈍化する中、中小企業を圧迫し、自分だけがもうけているとの批判が相次ぐ。
「10大財閥の純利益、上場企業の8割」――。1月10日に聯合ニュースが配信したこの記事は、韓国のほとんどのネットメディアが掲載した。
それによると、12月決算の製造業1345社の昨年第1四半期の売上高のうち、10大財閥に属する80社のそれが54.2%、純利益では78.1%を占めた。この記事は「財閥企業への経済力集中と野放図な業種拡大を防ぐべきだ」と訴えた。
朝鮮日報は1月9日付社説で、サムスン電子の2012年12月通期の営業利益が日本円換算で約2兆4千億円にのぼったことを取り上げた。サムスンを手放しで褒めず「有望な中堅中小企業をパートナーとして育てるべきだ」と注文をつけた。
オーナーが率いる財閥企業が多い韓国では継承の際の相続税逃れに厳しい目が向けられる。「優越的な地位を利用し下請け企業の納入単価を値切る」「製パン業に参入して街の零細企業を圧迫する」などの批判も根強い。
今、改めて財閥への批判が高まるのは、李明博(イ・ミョンバク)政権の大企業優遇政策の反動の部分が大きい。ウォン安による輸出拡大を図ったものの、国内消費が伸びず、内需中心の中小企業は苦しんだからだ。
朴槿恵(パク・クンヘ)次期大統領は1月7日、中小企業育成を経済政策の柱とすると宣言した。各紙は「中小企業の活動分野を大企業の参入から保護する仕組みなどを検討中だ」と報じた。
(編集委員 鈴置高史)
[日経新聞1月23日朝刊P.29]
(4) ジレンマの北朝鮮対応 中国と協力強化も
韓国の朴槿恵(パク・クンヘ)次期政権は対北政策でジレンマに直面する。
北朝鮮は昨年12月、事実上の長距離弾道ミサイルの発射実験に成功した。いずれ核実験に踏み切る可能性も高い。このため、対話しながら援助する「融和政策」を韓国がとるのは難しい。
かといって李明博(イ・ミョンバク)政権のように北と対話せず放っておけば、危険な核ミサイル保有国が隣にできるのを、手をこまぬいて見ていることになる。
韓国はもう一つのジレンマも抱える。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)第1書記が権力を確立すれば手ごわい相手になる。「核保有国」であることを背景に韓国に対しより強腰になるのは確実。米国も面倒を恐れて北朝鮮との関係改善に動くかもしれない。
逆に、金正恩第1書記が軍部の統制に失敗すれば北朝鮮は混乱する。それ自体が韓国の安全を揺るがすし、中国の北への介入を呼ぶかもしれない。韓国にとって悪夢だ。
金正恩第1書記はすでに軍の最高幹部4人を粛清あるいは降格させた。軍権の掌握に乗り出しているのは間違いないが、相当なリスクがかかる。
南北だけの取引は難しく、韓国内では北朝鮮の安定に中国との協力が不可欠との発想が高まる。木村幹・神戸大学大学院教授は「北の核実験の中断を中国が担保する代わりに、韓国が北に援助するなどの構想が検討されるだろう」と読む。
なお、朴氏は中国の新指導者、習近平総書記と親交もあり、中国語もできる。
(編集委員 鈴置高史)
[日経新聞1月24日朝刊P.25]
(5) 台頭する「米中等距離」論 対日関係にも影響
韓国は巨大な磁石のような中国に急速に引き寄せられる。米国との同盟はどうするのか。日本にとって最大の注目点だ。
2月の朴槿恵(パク・クンヘ)政権スタートを前に、中国の韓国へのラブコールが激しい。韓国・中央日報が1月10日付で掲載した楚樹龍・清華大学国際戦略研究所副所長の主張がその典型だ。
要約すると(1)韓国は中米間で等距離外交をすべきだ(2)「韓国は安全保障以外のすべての分野で中国から利益を得ているのに外交は米国に偏っている」との認識も中国の一部にはある(3)米韓の安保協力は北朝鮮を除いて、第三国や世界的意味を持たせてはならない――。
中国の当面の狙いは(3)で、米韓安保の標的を中国から外させることにある。それには中国を仮想敵とした米日韓3国軍事同盟の結成を阻止する必要がある。すでに韓国は「中国のシナリオ」に沿って動き出している。
昨年、韓国は米国の強い要請で日韓軍事協定を結ぶことにしたが、3国同盟のひな型になると懸念した中国の圧力で締結式の当日、日本に延期を通告した。一方、中国に対して韓国は同じ内容の軍事協定を申し込んだ。
朴次期政権は米国との同盟を基軸とする。しかし、中国の意向を受け入れ、対象を北朝鮮に限定するかもしれない。その際、北朝鮮が消滅したら米韓同盟も存在意義を失うことになる。
米国家情報会議の「世界の潮流 2030」も「統一された韓国は米国との戦略的協力関係から離脱する可能性もある」と予測している。
(編集委員 鈴置高史)
[日経新聞1月25日朝刊P.27]
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。